設定(というか元ネタボツ案?)
 

 


 




 近接した船。交わされる喧騒。血と硝煙、それを飲み込む潮の匂い。
 部下と敵船のクルーが争うのを視界の端にとめながら、フランベルクで敵を切り捨てたギルベルトの傍に、珍しく前線に出てきたアーサーが近寄ってくる。
 いつも被っているエバーグリーンのマントフードはなく、部下たちに至上の美だと称えられる緑の目がギルベルトを捉えた。そして小さく溜め息をついてただ一言吐き捨てる。 

「厭きた」

 あまりにも傲慢で、それでいて彼らしい科白。背中合わせに凭れ掛かってきた重みを受け止めながら苦笑いをこぼした。

「・・・仰せのままに、女王様」
 
 ギルベルトがフランベルクを持っているのとは逆の手を振り上げれば、敵船から爆音が響いた。
 巨大なガレオン船が炎をあげながら均衡をなくして倒れていく様に、その船のクルーは呆然とし、味方たちは喝采を叫ぶ。

 敵の乗船を許しながら自分たちは船に留まる。そして敵をひきつけているうちに敵船に爆弾を仕掛け、戻る場所を消す。後は甲板の上の敵を排除すればいい。

「相変わらず頭の回る奴だな」
「まわりが抜けているだけだ」

 心からの賛辞に返ってくるのは捻くれた言葉。相変わらず素直でないが、いつものことなので気にはしない。
 甲板にアーサーが進み出ると、クルーたちは恍惚とした表情で彼を仰ぎ見る。

「死人はいないな?」
「はい!」
「よし、長居は無用。出航だ!」
「Yes,sir!」



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 フランベルク・・・刀身が波打った形状の片手剣。特殊な刀剣が肉を引き裂き、止血を困難にするため、殺傷能力が高い。さらに治り辛い傷をつけるので「死よりも苦痛を与える剣」として知られる。(byウィキ)


***



「やあ、ジョーンズ君」
「おや、ブラギンスキじゃないか。まだ海軍にいたのかい?」
「あはは、それはこっちのセリフだよー。また命令違反したんだって?」
「相変わらず君はどうでもいいことばかり知ってるなぁ。よっぽど暇なんだな!」
「どこかの誰かみたいに周りを見ずに突っ走ったりしないからね、仕事が早いんだよ」
「おや、そうかい?外に出せないお仲間と仲良くするのに忙しいんじゃないかと思ってたんだけどなぁ」

 本日晴天。気候温暖。ここ屋外。
 気温は下降一直線。冷凍庫一歩手前だろうか。

「うぅ・・」
「ラ、ライヴィスー!」
「本田中佐、胃薬いりますか?」
「ありがとうございます」

 殺気にあてられて倒れるライヴィス。叫ぶエドァルド。常備している胃薬を出すトーリス。受け取る菊。
 上司たちの冷戦から離れたところで円陣を組んで、鉢合わせしないように予定の話し合い。ついでに胃薬の情報交換。

 今日も海軍東部支部は(一部を除いて)平和です。

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 米と露は准将。リトと日は中佐。エストが中尉でラトは軍曹。


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「あ、ルートヴィッヒ!いらっしゃい」
 
 ここ最近忙しくて行ってなかった酒屋デイズ・アイズのドアを開ければいつもと変わらない顔がルートヴィッヒを出迎えた。
 厨房兼フロア担当のフェリシアーノだ。

「げっ、来たのかよ」
「よ、相変わらず疲れた顔しとんな」

 客に対するとは思えない態度を返してきたのはカウンターに立ってシェイカーを振るロヴィーノ。その正面の席に座って声をかけてきたのは商人のアントーニョ。

「いつものやつでいいの?」
「ああ、頼む」

 笑顔のフェリシアーノが厨房に入っていくのを見送って、アントーニョから一つあけた隣に座った。間髪入れずにいつも頼む銘柄のビールと、何故か緑色の小豆が出される。

「・・・なんだ、これは?」
「アントーニョの土産!試食させてやるからありがたく食え」
「・・・疲れてるみたいだからおごってやるって言ったらええのに」
「余計なこと言うんじゃねー!」
 
 顔を真っ赤にしたロヴィーノはアントーニョの顔面にタンブラーを投げつけると、別の客のところへ行ってしまった。

「・・・お前も相変わらずだな」
「あははは」


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 デイズ・アイズ(day's eyes『太陽の目』)はイタリア国花のデイジーの由来。
 料理を作ったり運んだりするのはフェリシアーノで、酒を中心とした仕入れ関係はロマーノ。アントーニョは珍しい食材を土産にただ飯を食べに来ます。


***


 ユーロピアーナ海賊団。
 日没を意味する薔薇の名を冠し、旗印は棘のついたツルを纏う骸骨。表世界だけでなく裏世界にも名高いが故に、中堅の船員に懸けられる賞金すら中小規模の海賊船長より高く、船長に至っては言うまでもない。
 その船長の賞金がまたあがったという知らせは全世界に伝わり、当然その本人にも知られることとなった。

「ユーロピアーナの『薔薇女王』の首に過去トップ5の懸賞金!だとよ」
「誰が・・・誰がっ薔薇”女王”だー!?」

 二つ名が気に入らない船長の八つ当たりで放り投げられた新聞が近くにいた部下の顔面に当たり、周囲を巻き込んでどことなく嬉しそうな表情で倒れる。

「じゃあ、バージンクイーンとか、翠の魔女とか・・・」

 こちらは同業者内で広まっているアーサーの二つ名だ。名づけた連中はアーサーに完膚なきまでに叩きのめされている。

「だからなんで全部女扱いされてんだよ?!つか、バージンってなんだバージンって」
「そりゃ、処じょっ!?」

 言い終わる前に飛んできたペーパーナイフが髪を数本道連れにして背後の壁に突き刺さった。

「わかってるよ!だけどお前を船長代わりに出してるのになんで!!」
「偶然お前の顔見た奴が、最期に見るのにふさわしい美しさだ。とか言い残して死んでるからだろー」
「顔写真は入手出来ないくせにそんな情報ばっかり手に入れてんじゃねぇよ海軍!!」


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 二つ名が気に入らないアーサー。ギルベルトの二つ名は『黒翼(こくよく)の鷲』、プロイセン王国の国旗を参考に。
 海賊名はリリベット(妖精姫)と悩んで発音しやすいという理由でこっちにしました。

 海賊同士の話合いとかではギルベルトが表に出るので、一時期はギルベルトが船長として懸賞金をかけられてた過去があったり・・・。

***


 『双頭の猟犬』。狙った獲物は決して逃がさない海軍の狗。
 裏世界では狙われたら終わりだと恐れられ、民衆には英雄として称えられる彼、アルフレッド・F・ジョーンズは、その副官である本田菊にとっては手のかかる大きな子供だった。

「ジョーンズ准将」
「はい・・・」

 にこにこにこと穏やかに微笑む菊の手には先日購入したという鉈が握られている。
 執務室から脱走したのを菊専属の忍者部隊に捕獲されたアルフレッドは、縄でぐるぐる巻きにされて床に正座させられていた。

 戦いの場においては二丁拳銃を巧みに操り、指揮技能にも長けた頼りになる上官なのだが、書類業務には全く役に立たないと言ってもいい。むしろ「この役立たずが!」と叫ばせてほしい。

「これで何回目でしたっけ?せめて期限の迫った物だけでも処理しておいてくださいといいましたよね?」
「はい・・・」
「書類を読んでサインするだけでしょう?溜め込んで泣くのは貴方なんですよ?」

 この鉈でばっさり真っ二つにできたら気持ちいいだろうなー。
 菊の考えが洩れたわけではないだろうが、アルフレッドが怯えたように身をひいた。デスクの上には書類の山、山、山。そろそろ山脈が出来上がる。

「机の上の束全てを処理するまで執務室から出るのは禁止です。お菓子、漫画、ゲームは没収!」
「ええ!?そんな殺生な!」
「えぇい、やかましい!おどれがさぼるけんいかんのやろが!とっとと片さんかい!」
「ちょ、菊、口調が」
「んなこと気にする暇あったらちゃっちゃととりかからんかい!鉈の錆にすっぞ!?」
「わー!待って待って、落ち着いてくれよ!」

「ジョーンズ准将と本田中佐、またやってんのか」
「中佐、普段は穏やかな人なのになぁ」
「それを言ったら准将も頼りになる人ですよ」

 多種多様な意見はあるものの執務室からの怒声と悲鳴に慣れてしまった下官たちの感想は概ね同じであったという。

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 菊の二つ名は『涅槃夜叉』、たまに『おかん』。
 キレると大阪弁や江戸弁が飛び出します。