『国際統括本部報道官のユーリ・D・マスダ氏が会見を行い、イギリス・日本・スイスの有する国際統括本部の指導権及び統括権を別国へ譲渡する方針を明らかにしました。――』

『――国際統括本部。略称IGHは、史上最悪の大戦と称される第三次世界大戦時にその原型を持ち――の末に国際停戦の締結時に正式名称を掲げた組織であり――』

『―――1945年に永世中立宣言及び不干渉声明を発表した3国が――』

『対象国として検討されているのは国際連合主要国だった国々で、もし実行に移されれば国際連合の復活という形に―――』

『――大戦以前に国際会議の場となっていたのは国際連合という組織であり、こちらの主要国であったのはアメリカ・フランス・ロシア・中国・ドイツ・カナダ・イタリアなどの先進国だった――』

『―――主要国・対象国の声明は発表されておらず、関係者たちも急な発表に対応を決めかねている――』



 連日連夜、何処の放送局も国際統括本部の権利譲渡についてのニュースばかりだ。
 時間と共に情報の量は増え、しかし何一つ進展を見せない。


「ふむ・・・流石にSHKについては触れんか」
「当然でしょう」


 当事者だというのに呑気としか例えようのない態度のスイスに屋敷の主であるオーストリアの呆れた声が返った。

 オーストリアの屋敷へいきなりやって来たスイスは開口一番に「お前は人質である」とだけ告げてリビングのソファーに座ってテレビを凝視している。

 今頃、ヨーロッパ全域スイス捜査網が敷かれているのだろう。
 何が何でも事情を説明してもらう!と意気込んで出て行ったドイツの様子を思い出す限り、早々に諦めることはないはずだ。


「だから”人質”ですか・・・」


 小さく呟いた言葉だったが、この距離ならば届いている。なのに何の反応も見せないスイスにそれが気遣いなのだと認識することにした。

 要約するならば「迷惑はかけないから匿え」というところだろう。
 なら精々人質らしく何もしなければいい。


「結局、元通りになるんですね」
「・・・ああ」


 お茶請けはありませんよ。という声とともに出されたメランジェに、無言でレールケンが差し出される。

 手土産つきの立てこもり強盗ですか。

 もらえるものはもらっておいて、皿とシルバーを取り出してから隣に座る。


「・・・どうしていきなりこんな宣言を?」
「最初は書置きを残して失踪するつもりだった。これでも譲歩したほうである」
「何処がですか。前もって説明するなり仄めかすなりするべきでしょう」
「それは吾輩の守備範囲ではないな」
「お馬鹿さんですね・・・。穏便に済むと思ってるので?」
「いいや。・・・どうせ、今までもそうだったのだ。大して変わるまい」
「・・・・・・」


 自棄でも揶揄でもない淡々とした声。
 横目で見たスイスはいつもどおりの仏頂面で、視線はテレビに固定されたままだ。

 テレビ画面は何時の間にか天気予報になっていて、2人の視線もテレビではなく手土産のレールケンに移っていた。


「平和とは不変の日常であるらしい」
「不変?・・・昔に戻りたいと?」


 世界を左右する事について話している割にはなんとも緊張感のない光景だ。
 他国が居ればそんな感想を洩らしそうな状況も当事者たちにとっては関係ない。日常会話と同じような態度でオーストリアはスイスの言葉に応じた。


「まあ、そうなる。そして・・・平穏と日常を同等にする必要はないであろう?」
「・・・例え不穏であってもそれが常のことならば平和と評してもいいということですか?」
「ああ。それに、多少の刺激があったほうが長続きすると聞いた」

「・・・・・・私には嫌がらせの宣言にしか聞こえませんが?」

「うむ。そのつもりで言っている

「・・・もう勝手になさい」


 先ほどからそう言っている。とスイスが笑う。

 後に残ったのは溜め息と再びニュースになったテレビの音。







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